包帯を殺したのは腐女子
えっ?
正面に気をとらせておいて、
まさか横から幽霊?
驚いて真横を見ると、
いない、貞彦さんが消えた!!!
ええっっーーー、
相方を一瞬で、離れ離れにするなんて、
なんて、エキセントリックで斬新な
お化け屋敷…
と、思いかけたところで
ドクターの幽霊が、
「大丈夫ですかっーーー!!!?」
そういいながら、人間走りしてくる。
床に視線を向けると、貞彦さんが
ひっくり返されたカメのように、
仰向けに倒れていた。
幽霊と接触!?
いや、触れてない。
私は幽霊ではなく、仰向けの貞彦さんに
驚いて、棒立ちして動けない。
ドクターの幽霊がしゃがみ、白衣の内側から
インカムをだす、
「吉田です、1番通路応援」
すると、ナイフが刺さって流血している
幽霊と、
包帯グルグルのミイラが
猛ダッシュで走ってくる。
怖いっ!
幽霊が幽霊の動きをしない。
人間、予想してないことが
起きると怖いんだ。
「大丈夫です。いきなり来たので驚きました」
貞彦さんは、ベッドから起き上がるよう、
ごく普通に体を起こし、右手を床について
たちあがった。
「大丈夫?」
驚きすぎて、私のほうが
上ずった声になってしまう。
貞彦さんは、平然な顔で幽霊を見て
「幽霊、弱めでお願いします」
「わかりました!弱めで!!」
元気な居酒屋で店員さんを呼んだ時の
「はいっ!喜んでっ!!」みたいなやり取り。
ドクターの幽霊、吉田さんはインカムで、
業務連絡をする。
そして、集まった幽霊たちは
帰っていった。
お化け屋敷再開。
通路を歩いていくと、
先ほどの幽霊たちが、
各、隠れ場所から
申し訳なさそうにお辞儀をしていく。
そして、やっと
明るい出口。
眩しい。
貞彦さんは、普通の顔をして
そのまま、モールの出口へ歩いていく。
私は振り返り、お化け屋敷の方に
できるだけ深く頭を下げ、
貞彦さんを、小走りでおいかけた。
終
休日、お疲れ様です。家族の休日は、3食ご飯に、家族のペース、
スケジュールをあわせて主婦は動く。家族の総監督。
平日より疲れるようなきがします。
小さなご褒美を、自分にあげるのを忘れないでくださいね。
読んでいただき、ありがとうございます。
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飛鳥(ん…っくしゅ
ぶるっと肌寒さでくしゃみをしながら目覚めた私。
目を開ければ、さっきまでいたはずの病室のソファーに誰かのカーディガンを掛けられて寝かされているみたい。
そして目の前には野球部全員が集合しているが、妙に静か。
私がむくっと起き上がっても、リクライニングを起こしたベットに座る奈々未以外は気づかない程になにかに意識が向いている様子。
飛鳥(どうしたの?
橋本(おはよう飛鳥。今は私の状態をお医者さんが伝えられているところ
至って普通に、いつもの調子でそう言った奈々未だけど、みんなの顔は暗い。
目が覚めて良かったじゃないか。
なにをそんなに俯いているの?
飛鳥(ねぇ、なにかあったの?
橋本(すぐにわかるよ
すべてを知っているようなみんなは、私がそう言うと更に俯き目を逸らした。
なに?本当になにがあったの?
奈々未は元気そうだし、なんの問題も無さそうだけど。
西野(えっと…飛鳥、今のうちに深呼吸しとったほうがええかも…
飛鳥(え?
深呼吸?なんでそんなこと…。
医者(落ち着いて聞いてくださいね。橋本さんの怪我の経過は良さそうなのですが、左腕に麻痺があります
スタスタとソファーに座る私の前まで来ると、静かに残酷な奈々未の状態を告げられた。
飛鳥(ま、麻痺?
言葉はもちろん知っている。
だけど、現実ではあまり見ることも体験することもない。
そんなものが奈々未に襲いかかっている。
そんなこと、信じたくもなかった。
医者(詳しくは、肘から下です。リハビリをすればある程度の回復は見込めますが、完治するかどうかはなんとも…
飛鳥(え、じゃ、じゃあ…奈々未の手は…
動揺し、途切れ途切れに発した言葉。
その先の言葉は私の口からは出せなかった。
嘘だって言って欲しい。
そんな気持ちを込め、いつものように淡々と私の言葉を聞いていた奈々未に視線を移す。
橋本(この通り、手を握ろうとしてるけどまったく動かないよ
少し顔を歪めながら腕を持ち上げ、更に顔を歪めるけれども、ピクリとも動かない奈々未の手。
私の願いは届かなかった。
嘘だなんて思ってないけど、それでも嘘だと言って欲しかった。
飛鳥(……
でも、しょうがないんだ。
奈々未は私と違って動揺なんてしてる様子はない。
それなら私が騒ぎ立ててもなんの意味も持たないもん。
別に腕が動かなくたって奈々未は奈々未だし、リハビリをしたらちょっとは良くなるかもしれない。
野球だって……野球、は?
飛鳥(ねぇ奈々未、野球は?
そんな質問を投げかけると、奈々未は初めて私の質問から逃げた。
顔を逸らし、どうしようか迷っているのか口をもごもごと動かすけど、声は一言も発さない。
そんな奈々未の代わりに答えてくれたのは白石先輩。
白石(無理、じゃないかな…
飛鳥(でも、リハビリをすれば!
白石(確かにリハビリで回復することもある。だけど完全に回復するかは分からないし、かなりの時間を要するんだよ。引退はもうすぐに迫ってるし、高校では無理だと思う
飛鳥(そんな…
あまりにも残酷な答えだ。
奈々未は野球が大好きで、私は野球をしている奈々未が大好き。
もう、奈々未の野球をしている姿は見れないのかな…。
飛鳥(嫌だよそんなの!
白石(でもしょうがないよね。誰のせいでもないし、こうなったらもうななみんがリハビリを頑張るしか道は無いの
飛鳥(それでも嫌だ!
もうヤケだった。
奈々未の腕が動かせないとか、奈々未が野球している姿がもう見れないとか、そんなの絶対に嫌だ!
白石(飛鳥、落ち着いて
飛鳥(嫌だ!
白石(飛鳥がそうやって嫌だ嫌だ言っても、ななみんの腕が回復する訳じゃない。わかってるでしょ?
そんなこと、とっくにわかってるよ!
だけど…だけど、認めたくない。
飛鳥(わかるよ、わかるけど分かりたくない!
白石(飛鳥!
ビクッ
ソファーから立ち上がってまで反抗する私に白石先輩が叫んだ。
私と白石先輩の声しか響いていなかった病室に、白石先輩の大きな声が響き渡り、静まり返る。
白石(飛鳥がどれだけ悲しもうが失望しようが、ななみんには負担になるだけで、デメリットしかない!
白石先輩の顔はすごく怖くて、声の大きさとその形相にビクッと肩を震わせた私は、怯えて声も出せない。
白石(飛鳥が悲しいのもわかるけど、一番悲しい思いをしてるのはななみんだよ
飛鳥(そ、そんなのわかってる!
白石(わかってない。わかってないからそうやって嫌だって言うしかできないんだよ
飛鳥(違う!違うもん
白石(じゃあそんなこと、ななみんの前では絶対に言っちゃダメ
飛鳥(でも、でも…
白石先輩の言っていることは正論だ。
私がここで騒ぎ立ててもなんのメリットもないどころかデメリットしかない。
みんなに迷惑をかけているだけ。
自分でもわかってる。
だけど、どうしてもそれを認めたくないっていう気持ちもあって、同じ強さで攻めてくる二つの気持ちのどちらを優先するべきなのか。
ただでさえ奈々未の腕が動かないことに衝撃を受けた私は、パニックになり正確な判断なんて出来なくなっていた。
ただ押し寄せる気持ちの波を自分では処理しきれずに、子供のように駄々をこねながら涙を流す。
みんなの困ったような表情を見ると、自分に嫌悪感を抱き情けなく感じるけど、涙を止めることもできない。
白石先輩の言っていることは正論だ。
認めるしかない。
みんなの顔が見えないように、みんなから私の泣いている顔が見えないように、白石先輩の正論から逃げるように俯き、黙り込んだ。
橋本(飛鳥おいで
それでも動揺することなくいつも通りにそう言った奈々未。
さっきやってもらったように、右手だけ広げた奈々未の胸に恐る恐る、ゆっくりと顔を埋めた。
ずっと病室にいたからか、あまり感じない奈々未の匂い。
いつもよりも安心はできないけど、それでも充分だった。
奈々未の鼓動は私よりもずっと遅い。
私と違って奈々未はずっと冷静。
飛鳥(目覚めた時、その時から腕は動かなかったの?
顔を埋めたまま聞いてみる。
橋本(うん、動かなかった
飛鳥(なんで、言ってくれなかったの?
橋本(こうなると思ったから。飛鳥は絶対に悲しむから、今は心配かけちゃったみたいだし泣かせておこうと思って
飛鳥(ごめん、なさい…
奈々未は自分のことは後回しにして私のことを考えてくれた。
それなのに私は自分のことしか考えていない。
なんで私よりもショックを受けた人に優しくしてもらっているんだろう。
本当に情けない。
だから謝り、そっと奈々未から離れた。
橋本(いいんだよ。私こそごめんね、片手でしか抱きしめられなくて
飛鳥(充分だよ。充分すぎるよ…
橋本(いつか両手で抱きしめてあげるからさ、それまで待っててよ
飛鳥(…うん!
涙を拭って、決して後ろを向かず前を向く奈々未の言葉に頷いた。
両手で、奈々未に包まれるように抱きしめられたいけど、たぶん時間がかかる。
それまで私が奈々未に左腕の代わりになって、奈々未を両手で抱きしめられるように頑張ろう。
そう心に決めた。