俳画に何が起きているのか

わが国の雅楽曲の中に「夜半楽」（やはんらく）という変わった名前の曲があります。

この曲は、玄宗皇帝が帝位につく前、李隆基（りりゅうき）という名前だったころ、夜半に挙兵し、韋皇后（いこうごう）を討伐した時に作ったものと言われています。韋皇后というのは、則天武后を真似して政治を私物化しようとした悪女です。

日本では、承和年間（834〜848年）に、仁明（にんみょう）天皇の御遊の際、夜になって退出音声（まかでおんじょう：参会者が退場する時の楽）として奏した記録があります。

皇帝が帰還する時に相応しいと考えたのでしょうか。

江戸時代の俳人、画家である与謝蕪村は「夜半楽」という作品集を残しています。また、「夜半亭」という俳号を使っていたそうです。

与謝蕪村は、松尾芭蕉、小林一茶と並ぶ江戸俳諧の巨匠で、江戸俳諧中興の祖といわれています。また、俳画の創始者でもあります。

松尾芭蕉を慕い、行脚生活に憧れてその足跡を辿り、東北地方を周遊しました。宿泊費が無い時は、絵を描いて、お金の代わりに渡していたそうです。

俳諧の研究家である国文学者の尾形仂先生によれば、「夜半が夜半亭を意味していることはいうまでもない」とした上で、「春風馬堤曲」など、中国の楽府題詩に擬した作品を含むことから、「夜半楽」という題名を「春をことほぐ、夜半亭の楽曲の意」と捉え、さらに「ひそかなる夜半の楽しみ」といった意味をこめたものと解釈しています。

与謝蕪村の俳句には、雅楽にまつわる言葉がいくつも登場します。

おそらく、雅楽の知識があったのでしょう。

　御火焚（おひたき）や　霜　美くしき　京の町　　（御火焚は、火祭り）

　菜の花や　月は東に　日は西に

　ゆく春や　おもたき琵琶の　抱心

　うつつなき　つまみ心の　胡蝶かな

　涼しさや　鐘をはなるる　かねの声

　笛の音に　波もよりくる　須磨の秋　　　（平敦盛にちなんで詠んだ句）