ずっとメールを無視していたから、なかなか送ることが出来ずにいた。
夏休みももう残り僅か。
しかし、約束を取り付ける前に美容室に行かねば。
美容室といっても何処へ行けばいいのやら。
「おい!」
「何?お兄ちゃん。」
「お前は何処の美容室に行っているんだ?」
「え?美容室?いつもの床屋でいいじゃん。」
「いつもの床屋へ行っても何時もの髪型にしかならぬだろ。」
「どうしたの?急に色気づいちゃって気持ち悪。」
「気持ち悪くてダサいのは分かっておる!
けど、俺は美容室で真面な髪型にしてもらいたいのだ。」
「嫌だよ!美容院にお兄ちゃんがお兄ちゃんだってバレるのやだもん。
紹介なんてしないから。」
「何故嫌なのだ?
やはり俺がダサいからか?」
「当たり前でしょ!」
「そこを何とか頼む!お前の兄だということは伏せておくから。」
「絶対言わない?」
「言わない。誓って言わない。」
「分かった。」
妹に美容室を紹介してもらうのに此処まで苦労するとは情けない。
兄妹とはいえ、妹に此処までボロカスに言われ、兄だと知られなくないだなんて、俺はどれ程までダサいのかを思い知った。
美容室に電話をし、無事に予約を取ることが出来た。
そしていよいよ予約当日。
美容室でどんな髪型にして欲しいのかも、どんな髪型が似合うのかも自分ではよく分からない。
なので今より素敵な髪型にして欲しいと担当美容師にお任せをした。
するとスッキリさっぱりとなかなかのヘアスタイルになった。
何時もの眼鏡も多少は素敵に見える気がした。
これならバカにされることはないだろう。
いつもは出歩く事のないお洒落な街を少しブラブラしてみた。
するとバッタリ相葉に出会った。
「あれ?櫻井じゃん!髪型変えたんだ!」
「まぁな。」
「いいじゃんいいじゃん!すごくいいと思うよ。」
「それはどうも。」
相葉のファッションは物凄く洒落ていて、カッコイイ。
そして何より気になるのが隣にいる女子。
手を繋いでおるから、恋人なのか?
こいつには恋人がおるのか?
なら、松本くんは…
松本くんは相葉に憧れていて、好いておるというのに?
「何をしてるのだ?」
「何をって…デートだけど。」
「デートというのは、其の女子は恋人なのか?」
「そうだよ。」
「恋人がおるのに、松本くんを誑かしておったのか?」
「え?潤をたぶらかす?
ふふふ、櫻井?何を言ってるの?」
「俺は相葉の事を見損なった!
いい加減にしろ!」
と、言い捨てその場から立ち去った。
「えぇーっ!ちょっとさくらいぃーーー!」
と、相葉の叫ぶ声が聞こえる。
何故だ!
何故恋人がおるのに、松本くんを唆かすような態度を取るのだ?
松本くんからは相葉への愛が溢れていたのに、何故それに気づかぬのだ?
松本くんは振られてしまったではないか。
松本くんはこの現実を知っているのだろうか。
松本くんを思うと胸が苦しい。